死んでもいいわ
ほんとうに好きになった人がいました。
彼の苦しみも弱さも、わたしが持ちうるもの全てで全身全霊をかけて受け止めて、包み込んであげたい、守ってあげたいと心の底から思っていました。
この人と一緒にいたら幸せになれないと言われるのならば、一緒に不幸になりたかった。
ぼろぼろでもぐちゃぐちゃでも歪んでいようとなんであろうと、地獄の底まで一緒に笑いあっていたかった。
わたしたち似ているんです、すごく。
すごくさみしい人でした。
今まで1人で生きてきたからこそ、1人で生きていけない人でした。
人を貶めて騙して取り繕って、自分を大きく見せることしか術を知らない、嘘まみれの人でした。
すごく近いように見えて、実は1番遠い人でした。
とても、弱い人でした。
彼の苦しみが、叫びが、手に取るようにわかるから、わかってしまうから、大きな大きな愛で包んであげたかった。抱きしめてあげたかった。
あの人の一挙一動を必死に胸に刻んだはずなのに、時間は冷酷ですね。
もう、寂しげな大きな背中と深い深い悲しい瞳しか脳裏に浮かばなくなってしまいました。
目は嘘をつかないんですよ。絶対に。
隠していようと虚勢を張っていようとなんであろうと、目を見つめればその人の人となりがわかるとわたしは信じています。
いまでも夢に出てくるんです。
あの背中が、あの瞳が。
でもわたしはいつも、そんな彼の頬を撫でることしかできないんです。あの時みたいに。
助けてあげたい。
世界はこんなにも暖かく優しくて、捨てたもんじゃないんだと、希望を持ったままでいていいんだと、教えてあげたい。
どこで何をしているんだろう。
きちんとご飯を食べているかな。
きちんと可愛い女を誑かしているかな。
きちんと眠れているかな。
きちんと幸せかな。
わたしはあなたと過ごした4ヶ月間、苦しいことも全てひっくるめてとてもしあわせでした。
できることならあなたの全てになりたかった。
あなたが落ち着ける、武器も虚勢も置き去って全てを忘れられる場所になりたかった。
なれる自信があった。
なんか、野良犬みたいな人だったの。
愛を知らない、愛されるということがどういうことなのかわからないが故にいつも牙を向いているような。
それしか生き方を知らないような。
いくらでも包み込んであげる。
あなたが羽を休めて、また飛び立つことができるように、たとえわたし自身が朽ち果てるとしても、わたしの全てをあげる。
だから、帰っておいで。
あの人が吸っていた煙草は、ショートホープでした。
ねえりょうくん、わたしのピースをあげる。
だからおねがい、どうかどうか、しあわせでいて。