鏡よ鏡
原罪を犯した人間に待ち受けている罪は死だそうです。
その死とは体が物理的に朽ち果てることではなくて、虚無のことを指すんだそうで。
嗚呼、やっぱりね。
心にぽっかり穴が開いて、心を映す鏡である瞳は空洞のように何も籠らない漆黒に染まって。
愛のある犯罪というものが存在するのとは裏腹に原罪には絶対に愛が存在しないそうです。
ただの独りよがりだと。
嗚呼、わたしのことだな。
と思うことさえ野暮だと思わざるを得ないほど、心を垂直に突き刺されました。痛かったな。
どうしてなのかわからないんです。どうして、いつ、わたしがこんな人間になってしまったのか。
ある程度裕福な家に生まれて、一定数友達もいて、大学にまで進学できて。
揉まれて揉まれて揉み扱かれて、世界に絶望したこともあったけど一度だって希望を捨てたことも、心の底から本気で死のうと考えたこともありません。
なのに、このザマです。笑えちゃうね。
一生満たされることはないそうです。一生。
アダムとイヴは原罪を犯しました。理性で歯止めをかけることができなかったからなんだって。
わたしはあの2人のことが痛いほど理解できます。わたしがアダムだったとしても、イヴだったとしても、禁断の果実に間違いなく手を伸ばしていたと思います。
でも、この世界には絶対にその実を食べない人もいるでしょう?実を捥ぎって、それでもやっぱり口に運ぶのを思い留まる人も存在するわけじゃないですか。
実を捥ぎったのに、食べない、とは一体。
不思議で仕方がないの。羨ましい。そういう人間が、ほんとうに羨ましい。
わたしはいつ、間違えましたか?
毒林檎って何色なんだろうね。一目でわかるのかな。
鼻が口の上についているのは、毒を嗅ぎ分けるためでしょう?
つめが伸びてきたな。生きてるね。