紅を引け
初めて付き合った人は3つ上でした。
わたしが14歳の時でした。
見る目がなかった。これに尽きます。
生まれて初めて人を平手で殴りました。
殴った時、悪いことをしたのはわたしじゃないのにどうしてわたしまで痛い思いをしなければならないんだと、なんて理不尽なんだと思いました。
次に付き合った人は同い年でした。
優しかった。優しすぎる人でした。
その優しさに数え切れないほど溶かされて救われたけど、同じだけの優しさを求められたのがしんどかった。わたしはそんなに良い子じゃありませんでした。
優しい人も苦しい人なんだと思いました。
その次に付き合った人とは、二回始まりがありました。
下ネタでゲラゲラ笑い合えるような人でした。
母子家庭で、限界まで詰め込んだシフトで稼いだバイト代を家に納めていて、毎晩違う男を連れ込む母親と暮らしていました。
泣いている男を抱きしめたのは初めてでした。
同じ年月を積み重ねてきているのに17年間でこの人はどれだけ傷ついてきたのだろうと、他人の痛みを目の当たりにして足がすくんで涙が出たのも、初めてでした。
本気で好きでした。
きょうは温かいご飯を誰かと食べられたかな、笑えているかな、寝付けたかな、と今でも思うのはこの人だけです。
つい最近、わたしが18年生きてきてはじめて、わたしに何にも求めてこなかった男に合鍵を返してきました。
6つ年上でした。
兵庫のイントネーションが心地良かった。
わたしのために泣いてくれた初めての人でした。
ここにいれば安全だ、もう傷つかなくて済む、と。逆に、この手が離れていってしまったらわたしはもう自分の足で立っていられなくなると、思わせられるような人でした。
あの人が真夜中に淹れてくれていた甘ったるいホットミルクの味を忘れる時が来ると思うと、それさえも手放さなければならないのかと思うと、怖いです。
好きだった。好きだったんだけどなあ。
わたしはあまり恋人に依存しないタイプだとは思います。別に好き勝手違う女を抱いていてもいいし、干渉するのが面倒なので問いたださないしもちろん携帯なんて見ません。
愛があれば浮気したことを墓場まで持っていくと思うんですよね。愛があれば、隠し通してくれるはずなんです。だって、こちら側が気がつかないはずがないですから。バレているとわかっていてもなおしらを切るほどの度胸と根性がある男なんて、希少価値が高いと思いません?浮気されたくらいで別れませんよ。もっと酷いことを散々されてきていますから。
まあその代わり、わたしの貞操観念もぐらぐらになりますが別に良いですよね?というスタンスに切り替えますが。
わたしが今18ではなく例えば21だったら、180度違う結末が待っていたんだろうなと思います。そう思わないとやっていけない。
好きなのに別れるなんて、こういう別れもこの世には存在するなんて、18のアクが抜けきっていない青臭い小娘にはまだまだ足を踏み出せない世界だったみたいです。
気がついてはいましたが、恋愛をしている時の方がうまくいくんですよね、わたしの人生。
その誘発剤が自分の内部から湧き上がってくるようになればいいのに。それを潜在的に持っていて自覚がある人、羨ましい。強い。
それこそが良い女だと思うのですが、良い女は貫くと都合が良い女になると何処かで聞いたのでわたしはこれくらいゆるゆるで生きていくしかないのでしょうか。
良い女にも都合が良い女にもなり切れないなんて、哀れですが。
女は度胸ですよ。
これだけは胸を張って言えます。
燃え尽きて灰になれる人生ならば、本望です。